この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。己は昨夕も、彼処で月に向って咆えた。
誰かにこの苦しみが分って貰えないかと。しかし、獣どもは己の声を聞いて、唯、懼れ、ひれ伏すばかり。
山も樹も月も露も、一匹の虎が怒り狂って、哮っているとしか考えない。
天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人己の気持を分ってくれる者はない。
ちょうど、人間だった頃、己の傷つき易い内心を誰も理解してくれなかったように。己の毛皮の濡れたのは、夜露のためばかりではない。(中島敦/山月記より)
◆予告◆1月の文豪カクテル第二弾
『 孤月 〜中島敦 / 山月記 〜』
(月夜の金柑酒 〜花の蜜と生姜の雫〜 )
1月の文豪カクテル二本目は中島敦。
主人公は詩人となる望みに敗れて虎になってしまった男・李徴。
教科書にも掲載されている、中国を舞台にした変身譚です。
長江流域原産の金柑を蜂蜜漬けにし、そこにアクセントの生姜を数滴。
異国情緒が漂う凛々しいカクテルに仕上げました。
ごろごろ入った金柑の果肉が飲みごたえのたる一杯です。
蜂蜜がたっぷり染み込んだ自家製金柑漬けです♪ のどに優しく、ビタミンもたっぷり。
グラスの淵に飾った金柑を、孤高に生きる李徴を照らす月に見立てて…
こちらは年明け1月5日より提供開始です!
十誡