「痛みますか」
「いいえ、あなただから、あなただから」
かく言い懸けて伯爵夫人は、がっくりと仰向きつつ、凄冷極まりなき最後の眼に、国手をじっと瞻りて、
「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」
謂うとき晩し、高峰が手にせるメスに片手を添えて、乳の下深く掻き切りぬ。医学士は真蒼になりて戦きつつ、
「忘れません」
その声、その呼吸、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑を含みて高峰の手より手をはなし、ばったり、枕に伏すとぞ見えし、脣の色変わりたり。
そのときの二人が状、あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし。
泉鏡花「外科室」より抜粋
9月の文豪イメージカクテル第一弾は泉鏡花。
代表作、外科室をイメージしたカクテルプレート「針槐(はりえんじゅ)」
甘酸っぱくしゃりしゃりとした食感の和梨をふんだんに使用したホワイトレディ(白い貴婦人)です。
針槐の花言葉は「優雅」「慕情」「親睦」そして「死に勝る愛情」…
魂の恋人、高嶺医師に命を捧げて死んだ夫人の心をイメージした純白のカクテルです。
9月末までの限定の味わいです。是非ご賞味下さい。
十誡